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出版社勤務のかんらく(@kan_raku44)です。

歴史的な名著を復刊し、ベストセラー街道を突っ走っているマガジンハウスの『漫画 君たちはどう生きるか』を読みました。

なぜ今こんなに売れるのか、どんな内容なのか、私なりの分析と感想を書いてみました。

ついに累計200万部を突破しました。

 

話題に火がついたきっかけ

1.宮崎駿監督の次回作のタイトルに

そもそもなぜ、ブームに急に火がついたのか。そのきっかけの1つは、10/28に早稲田大学で行われたイベントです。

登壇したアニメ界の巨匠・宮崎駿監督が、製作中の次回作のタイトルを「君たちはどう生きるか」にすると発表し、がぜん注目が集まりました。

その本が主人公に大きな意味を持つ

この本が映画の原作というわけではないのですが、「その本が主人公にとって大きな意味を持つという話です」と語っています。

本の内容を考えると、骨太な熱い映画になりそうな予感がします。

2.世界一受けたい授業で紹介

宮崎駿監督の発表に先んじて、人気番組「世界一受けたい授業」で、齋藤孝先生が取り上げたことも大きいでしょう。

80年前に出版された「君たちはどう生きるか」に学ぶ~人間としてあるべき姿とは

というテーマで授業が行われました。

さらに2018/1/27にも第2弾が放送され、さらに勢いが増しています。

起爆剤となる番組トップ3

今、番組で紹介されると、本の売上が爆発的に上昇するトップ3は、「世界一受けたい授業」「金スマ」「王様のブランチ」ではないかと思います。

この3つの番組で紹介されると、書店は慌てて、本の追加発注をします。

事前の情報がかぎ

発売元の出版社(版元)にはふつう、テレビ局から事前に番組で紹介したい許諾の連絡が来ます。

書店はいかに事前に版元から情報を得て、前もって注文できるかにかかっています。

この2つの起爆剤によって、今、書店営業をしていると、どこに行っても、展示が目立っています。

 

君たちはどう生きるかの書店の展示写真

 

『ワンピース』の最新刊と一緒に展示されていますから、よく売れているのが分かりますね。

こちらは都内の大型書店です。ボリュームがありますね。

 

書店の展示

 

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著者はどんな人?

では、著者はどんな人なのでしょうか。

『君たちはどう生きるか』の初版は1937年に出版。著者は、編集者で児童文学者の吉野源三郎さんです。

源三郎さんの人となりが分かるエピソードがあります。(「世界一受けたい授業」より)

裁判長にケンカを売る

32歳の時、政府が禁じていた海外の共産主義運動に関与した疑いで逮捕。

その時、死刑を免れるきっかけになった裁判中に起こした驚きの行動があるんです。

それは、裁判長にケンカを売った、ということです。

拷問にも屈しなかった

逮捕後、仲間の名前を吐かせる為、拷問を受けた源三郎さんですが、決して名前を言いませんでした。

そして、決死の覚悟で裁判長に訴えます。

「裁判長、あなたも軍人でしょう。あなたが敵国に捕まった時、仲間を敵に売りますか?

この強い信念が裁判長を動かしたのです。

本の中に共産主義運動の要素は感じませんが、この仲間を守った体験は、そのまま本のテーマに深く関係しています。

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この本が売れているポイント

なぜ80年以上前に出版された本が、今、こんなにも売れているのか。

上述のテレビやメディアで取り上げられたのが起爆剤となったのは間違いありません。

しかし、これだけブームが続いているのは、もっと根源的なコンテンツそのものの魅力があるはずです。

その要因を、出版社の立場から分析してみます。

1.「友達のいじめ」という誰もが共感できる普遍のテーマが中心

主人公はコペル君(コペルニクスからついたあだ名)というふつうの中学生の男の子です。

友達のクラスメートが、いじめっ子に目をつけられます。

何かと、嫌がらせをされるのですが、コペル君は自分がどう関わるか葛藤します。

いじめはさらに波及

そのクラスメートを助けた別の友達が、今度はいじめっ子の兄(上級生)から目をつけられるのです。

その時、「どう正しく生きるべきか」が、メイン・テーマになっています。

コペル君は結果的に、友達を裏切ってしまうことになるのですが・・・。

だれもが一度は葛藤したこと

だれもが一度は経験し、葛藤し、悩んだことがあると思います。

勇気を出せずに後悔している人もあるかもしれません。

多くの人が自分の体験に重ね合わせて読めるでしょう。

子どもにとっては大問題の、普遍的なテーマがヒットの要因だと思います。

2.叔父さんとの対話、手紙を通して、学ぶ形式

コペル君が叔父さんとの対話、手紙のやりとりを通して、学んでいくという形式もヒットの要因だと思います。

この手の自己啓発書、ビジネス書は、対話形式、ストーリー形式がヒットの方程式なんです。

いくつか思いつく例を挙げてみます。

ソフィーの世界 哲学者からの不思議な手紙

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

※『嫌われる勇気』は、韓国、台湾、アドラーの母国オーストリアでも翻訳出版され、いずれも大ベストセラーになっています。特に、韓国では建国以来最大のベストセラーとなっているそうです。くわしくはこちらの記事に書きました。

夢をかなえるゾウ文庫版

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

チーズはどこへ消えた?

すべて、対話形式か、物語形式でメガヒットになった印象的なベストセラーです。

ちなみに最後の「チーズはどこへ消えた」は、大谷翔平選手が愛読していることで、再び話題になりました。

3.偉人のエピソードを通して、人生哲学を学ぶ

叔父さんは、元書籍編集者という設定なので、とても博識です。

先日、この本の編集者の柿内氏に直接話を聞く機会がありました。

はじめは叔父さんを軍医か、たまたま出会った知らない人にする案もあったそうです。

原作では、30代の叔父さんが上から目線でコペル君に教えを説くのですが、それでは現代に合わないので、叔父さんも悩みながら一緒に成長していく設定にしたといいます。

二人の関係性のモデルになったのは何と、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドクとマーティです。

柿内氏言わく「上下でもない横でもない、あのドクとマーティのバディー感が最高なんです」と。

あの映画の魅力は、実はそこにあったのですね。

話がそれました。

元編集者という設定を生かして、ニュートンやナポレオンなど、偉人のエピソードを通して、ものの見方・考え方、人生哲学を学べるところもお得感があります。

学校での日常にとどまらず、その日常の出来事を通して、少年たちがこれから大人になってどう正しく生きるかまで、対話を進めていく点が、本に奥行きを与えています。

4.「歴史的名著」と謳う帯の言葉が秀逸

帯に、「日本を代表する歴史的名著」と謳われると、多くの人が「読んでおかなきゃ」と思うでしょう。

これはマガジンハウスさんの戦略と、編集者のセンスだと思います。

今、再びベストセラーになっているのは、そのキャッチコピーが、この本をアピールするのに最適だった証だと思います。

編集者の手腕

実はこの本の編集者の柿内氏は、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか』『嫌われない勇気』で大ヒットを飛ばしたことでも有名です。

消費者インサイト

『さおだけ屋~』は特にタイトルが秀逸です。まさにメガヒットを生み出す秘訣・消費者インサイトにヒットした成功例だと思います。

(「消費者インサイト」について関心のある方は、こちらの記事をお読みください。)

柿内氏が企画から2年以上かけて世に送り出した、この『漫画 君たちはどう生きるか』も、たまたま運がよかったわけではありません。

消費者インサイトにジャストミートし、なるべくしてベストセラーになったのでしょう。

5.マンガ版の装丁の少年の目力がすごい

マンガ版の装丁がとても印象的でした。書店で強烈に目に飛び込んできます。

強い意志に満ちあふれた目が、何かを訴えてくる感じがします。目力の勝利でしょう。

 

 

マンガ版はてっきり10代~20代が買っているのかと思っていましたが、購入者層を調べてみると、なんと40代が一番多いんです。やはりマンガで育った世代だからなのでしょうか。小説版はこちらです。

 

 

日本を代表する歴史的名著なら、読まない手はないですね。岩波文庫版はこちらです。

 

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