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こんにちは、出版社勤務のかんらくです。

先日、大ベストセラー『嫌われる勇気』の編集者、柿内氏から制作秘話を聞く機会がありました。

アドラー心理学の概念を、画期的な手法で分かりやすく表現し、社会現象にまでなった本です。

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

本当に勉強になったので、学びをシェアします。

 

2つのこだわり

今をときめく柿内氏の本作りのこだわりは2つ。

●「100年後も読まれる本にする」

●たった1人に深く影響を与える本をつくる

この2つだと思います。

私はそう理解し、そしてこれが編集の極意だと思いました。

 

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固有名詞を入れない

100年後も読まれる工夫として、『嫌われる勇気』は時代や国を特定するような固有名詞をなくしたということがあります。

悩める青年と、アドラー心理学を体得した哲人の対話形式になっているのですが、どちらも名前は出てきません。

いつの時代、どこの国の人が読んでも、自分のこととして読めるようにするための配慮です。

対話の舞台も古都のはずれ

対話の舞台も、古都の外れ、とだけ書かれています。

古都は世界中にありますから、読む人によって、京都になっなり、ロンドンになったり、ヴェニスになったりするでしょう。

唯一悩んだのは、青年が図書館司書をしているという設定なのですが、これはギリシャ時代もあったのでOKとしたそうです。

モデルはマーク・トゥエイン

対話形式のモデルとなったのは、マーク・トゥエインの『人間とは何か』です。

この作品は人間は機械である、という衝撃的な内容なのですが、老人と青年の対話篇になっています。

世界中で読まれる

そのような配慮により、国内はもとより、海外でも爆発的に広まっているのです。

韓国では建国以来の大ベストセラーになっています。

アドラーの母国オーストリアにも逆輸入され、11刷りまで増刷を重ねています。

イギリス、北米でも出版されました。

 

たった1人に深く影響を与える

柿内氏の出版のコンセプトとして、たった1人に届けばいいという強い信念があります。

たった1人に深く影響を与え、その人の人生を変える力のある本は、当然、多数の人生を変える力があるのです。

「嫌われる勇気」のたった1人とは編集者自身

『嫌われる勇気』は、柿内さん自身が読者で、自分が欲しい本を作ったそうです。

この本で、とても楽になったと語っていました。

ですから作品中の青年とは、ライターの古賀さんであり、柿内さん自身なのです。

哲人にあたるのが、著者の岸見さんです。

一人に届けば、万人に届く

柿内氏いわく、「この本はアンケートのかえりがすごい。そしてどれも熱いんです」。

ふつう、アンケートハガキは100人に1人も出版社にかえって来ません。

「嫌われる勇気」は、アンケートのかえりはもちろん、アマゾンのレビューが1,000件を超すという規格外の反響です。

一人の心を揺さぶることができれば、万人の心を揺さぶることができるのです。

 

哲学・心理学の文脈から外す

編集の仕事には、その本を読者に読んでもらう文脈を作るという極めて重要な作業があります。

その本をどのような人に、どのような動機で読んでもらいたいかを設定するということです。

『嫌われる勇気』の内容は、アドラー心理学ですが、あえてタイトルにアドラー心理学ということを前面に出していません。

心理学・哲学という文脈から外すためです。

アドラー心理学を前面に打ち出すと、書店では心理学・哲学の専門書の棚に置かれ、哲学に関心のある人にしか読まれなくなります。

しかし、この本は、自己啓発書として多くの人の生き方に実地に役立ててほしいという思いで作られた本なのです。

だから、ビジネス書、自己啓発書の得意な出版社である「ダイヤモンド」に原稿が持ち込まれました。

結果、専門書ではなく一般書として、爆発的な広がりを見せたのです。

 

編集とは組み合わせの妙

今回、私が感じたのは、編集者とは無から有を生み出す存在ではなく、すでにある何かを融合させて、新しい価値を生み出していく才能を持った人なんだなということでした。

柿内氏は実はあの、『漫画 君たちはどう生きるか』の編集者でもあります。

『漫画 君たちはどう生きるか』についても記事を書いているので、関心のある方は、こちらをお読みください。

『嫌われる勇気』の感想はこちらに記事をアップしています。

 

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