出版社勤務のブロガーかんらく(@kan_raku44)です。
私が編集の仕事をしていた時、ひたすら歴史上の人物の生涯を調べていたことがあります。
目次
人を惹きつける人物
古今東西、いろんな人物の伝記を読みましたが、その中になぜか周りの人を、ひときわ引きつけてやまない人物がいるんですね。
その一人が、上野の銅像でおなじみ、西郷隆盛です。
人が集まってくる理由にもいろいろある
人が集まってくる理由もいろいろあります。
ユーモアがあって周りを笑わせてくれるから。仕事のスキルが高いから。
行動力があって、一緒にいるとモチベーションが上がるから。お金持ちで羽振りがいいから、などなど。
西郷隆盛の人望は共感力
西郷隆盛が、周囲の人をひきつけてやまない魅力は、まさにその共感力の高さにあったのだろうと思います。
西郷と人気を二分する坂本竜馬が、西郷と歴史的対面を果たした後で、勝海舟から西郷の印象を聞かれ、このように答えています。
「竜馬がゆく」から
司馬遼太郎の傑作『新装版 竜馬がゆく (5) (文春文庫)』から、引用しましょう。(※文春文庫なら287ページ「変転」の章)
「われはじめて西郷を見る。その人物、茫漠(ぼうばく)としてとらえどころなし。ちょうど大鐘のごとし。小さく叩けば小さく鳴る。大きく叩けば大きく鳴る」と。
知言なり、と勝は大いに感嘆し、
「評するも人、評せらるるも人」
とその日記に書きとめた。
小さく叩けば小さく鳴る、大きく叩けば大きく鳴るというのは、相手に共鳴する人物であることを例えているのでしょう。
共鳴とは、言葉を換えれば共感であり、西郷隆盛は、非常に共感力のある人物であったことがうかがえます。
共感力とは、相手の目線に立って、相手の気持ちを考える習慣
共感力が高いとはどういうことかというと、相手の目線に立って、相手の気持ちを慮る習慣のある人だと言えるでしょう。
再び、『竜馬がゆく』から、西郷と竜馬のエピソードを紹介します。
西郷と初めての面会
西郷とはじめての面会をするために、京都の薩摩藩邸を訪ねた竜馬は、西郷があらわれるのを待っている間に、中庭に鈴虫の鳴き声を聞きます。
無邪気に庭に下りると、ややあって現れた西郷をも巻き込んで、鈴虫取りに夢中になります。つかまえた鈴虫を、竜馬は、西郷に託すのです。
竜馬は風流を愛する男
竜馬は風流を愛する男だったのでしょう。託された西郷は、大事を請け負ったように慌てて虫籠を用意させ、軒下につるすのです。
なんだか、維新を代表する志士二人が、鈴虫一匹に、懸命になっている光景を想像するとほほえましい限りです。
しかし物語はここからで、後日、再び、竜馬が西郷の元を訪れた時、竜馬はハッと驚きます。
ふと軒端にまだ虫籠がぶらさがっていることに気づいた。しかもあたらしい草が入れられ、朝の光のなかで鈴虫が元気よく動いている。見るなり、竜馬は目を洗われるような思いがした。
(まだあれを飼うてくれちょったか)あれから一月になるのだ。よほど心をこめて飼わないかぎり、生命の弱い鈴虫など、とっくに死んでいるはずである。
(西郷という男は、信じてよい)
と竜馬はおもった。西郷にすれば別に鈴虫が好きなのではあるまい。竜馬がいつ来ても鈴虫が生きているように、入念に飼い育てていたものにちがいない。もっとも、後日、この鈴虫の秘密を知って竜馬はますます西郷を信ずるようになった。
初代は、三日ほどで死んだのだそうだ。西郷はあわてて、
ーー幸輔どん、坂本サンがくればこまる。納戸の者にそう言うて、鈴虫を一匹獲らせて賜ンせ。
とたのんだ。かわいそうに諸藩にきこえた志士の幸輔どん(吉井友実)は、大さわぎして鈴虫獲りをはじめねばならなかった。
その二代目も死んで、竜馬がみたこの鈴虫は三代目なのである。心づくしという言葉がある。茶道のことばである。
「人をもてなす心のはたらき」という意味であろう。
(『新装版 竜馬がゆく (5) (文春文庫)』※310ページ「菊の枕」の章)
相手の気持ちを考えることを習慣にすることで、共感力は高くなる
西郷は、竜馬の立場になって、次に藩邸を訪れた時に、「鈴虫がいなかったら、悲しむだろう」と、竜馬の気持ちを慮かったのでしょう。
多くの維新の志士をひきつけた西郷の人望の源は、こんなところにあったのだろうと思っています。
ビジネスの現場でも
「相手の立場に立って考えろ」とは、ビジネスの現場でもよく言われることです。
西郷は生まれつきの資質が多分にあったように思いますが、だれでも意識して、相手の気持ちを考える訓練を重ねることで、少しずつ、人を引きつける共感力を磨くことができるでしょう。
心がけたいと思っています。
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