こんにちは、映画好きの出版社社員、かんらくです。
カンヌ国際映画祭、最高賞のパルムドールを受賞した「万引き家族」を観てきたのでその感想を。
満足度は★★★です。
チケットショップで買ったTOHO CINEMAS専用の前売り券です。
土曜日の夕方でしたが、人の入りは、多くも少なくもなく、ちょうどいい感じでした。
万引き家族の構成
この映画は、万引きをしながら生計を立てる六人家族の日常を描いた物語です。
六人とは、老婆の樹木希林、その息子夫婦のリリーフランキーと安藤サクラ、安藤サクラの妹、松岡茉優、フランキー夫妻の息子と娘・・・と、対外的にはそういう建前になっています。
【建前上の家族構成】
樹木希林・・・・・・祖母
リリーフランキー・・息子
安藤サクラ・・・・・息子の嫁
松岡茉優・・・・・・息子の妹
少年・・・・・・・・息子夫婦の子供
少女・・・・・・・・息子夫婦の子供
建前ということは、実はこの6人、誰一人血縁関係はなく、本当の家族は一人もいないのです。
どういう関係なのかは徐々に明らかになっていきますが、一つ言えるのは、皆、一人暮らしの老婆、樹木希林さんの家に居候しているということです。
それも本当にあばら家のような平屋に、肩を寄せ合って6人が暮らしているのです。
ほとんど雑魚寝状態で、部屋は散らかり、風呂は廃墟のようで、その汚さがリアル、見ているのが辛くなるほどです。
間違いなく底辺の暮らしで、現代社会のサイクルからは外れた暮らしです。
同じ時間、同じ空間に存在していても、境遇によって、まるで異次元のような別世界に生きていることがあると痛感させられます。
この映画には、私が心をワシづかみにされた、名優による、名演技が2カ所ありました。
演技というか、演技という概念を超えてきたというのが実感です。
心をワシづかみにされたシーンが2つ
事前に、ネットニュースで以下の情報を得ていたので、安藤さんの泣くシーンを楽しみにしていました。
パルムドールの受賞者と審査員が集うディナーでの出来事です。
是枝監督は、審査委員長のケイト・ブランシェットとカンヌの受賞者と審査員が集う公式ディナーで話をしたという。
「演出と撮影と、役者と全てトータルでよかった」と作品について語っていたケイトだが、ディナーの際には「安藤サクラさんのお芝居について、熱く熱く語ってました」と振り返る。
是枝監督は、ケイトが
「彼女のお芝居、特に泣くシーンの芝居がとにかく凄くて、もし今回の審査員の私たちがこれから撮る映画の中で、あの泣き方をしたら、安藤サクラの真似をしたと思ってください」
と言っていたことを明かし、「彼女のこの映画における存在感が、審査員の中の女優たちを虜にしたのだなというのは、その時の会話でよくわかりました」
と振り返った。
(マイナビニュース)
このケイトさんのコメントを読んで、なんとなく安藤さくらさんの号泣する演技を想像していました。
安藤サクラの泣きは、想像を上回ってきた
これはどんなシーンかというと、
池脇千鶴演じる女性刑務官の尋問に答えるシーンなんです。
池脇さんから「あなたは子ども達からなんて呼ばれていたんですか?」と聞かれるんです。
これが実に、安藤さんの肺腑をえぐる質問だったんですね。
安藤さんは、なかなか答えられない。困ったような顔をして、だんだんと目が潤んできてそれを大きな掌でぬぐう、の繰り返し。
黙って呻吟した挙句に、ボソリと「なんでしょうね」と絞り出すように答え、涙がポロリとこぼれる。
そして、カメラ目線でじっとこちらを見つめるのですが、その瞬間、背筋がゾクッとしました。
周りの観客もスクリーンも消えて、目の前にさくらさんが現れ、たった二人で対峙しているかのような感覚に襲われるのです。
怖いというわけではありません。
安藤さんの苦悩を真正面からぶつけられたような、迫力です。
演技という範疇ではくくれない
あれは、演技という範疇ではなかったです。
役になりきっているとかでもありませんでした。
あの瞬間、安藤サクラは信代だったのです。
その証拠に、安藤さんは、シネマトゥデイの単独インタビューで、インタビュアーから
涙を流していたのは監督の演出なのですか。
と質問され、
取り調べている相手に対して絶対に涙を見せたくなかったので見せまいと頑張ってはいたんですけど、ダメでしたね。
と、答えていました。
これは演技に対する女優の回答ではなく、当事者(信代)の告白そのものですよね。
取材者と安藤さんの会話が、虚構と現実の間で食い違っているのが面白いと思いましたし、女優・安藤サクラの凄いところだと思いました。
樹木希林の人生最期の微笑みは、鳥肌もの
意外とネット上で論じている人がいないのですが、もう一つのスゴイ見所は、樹木希林さんの、微笑みと表情です。
樹木さんが、亡くなる前日に皆で海水浴に行くのですが、波打ち際で戯れる5人を見つめる樹木希林の表情が、鳥肌ものでした。
老いと諦めと達観と、80年以上の人生を送った人でないと絶対にできない表情が、最高の演技だと思いました。
それを観たら、あ、この人明日死ぬんだな、とピンとくるでしょう。
死期をさとっているというか、生きることに満足している表情です。
それは満たされきった満足ではなく、「もう十分、もうこれでいいでしょう」と述懐するように、生きることをあきらめたような満足です。
あの表情がなんともせつなくて、胸が締め付けられる思いがしました。
後日、その理由が明らかになりました。
この記事をはじめにアップした二ヶ月後に、樹木希林さんの訃報が、日本中に報道されました。
実際に樹木さんは、死期をさとっていたのでしょう。
もはや演技の範疇ではなかったのは当然です。
生涯に一度しかできない、最高の演技です。
これは絶対に観ておくべきだと思います。
とてもいい映画ですが、根本的に私はエンタメ好きなので、
観てよかった満足度は、★★★ 星3つです。
中盤以降、それぞれの素性が明らかになる頃から、一気に面白くなりますよ。